多民族国家の国民食

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 平和な国家間競争の場である博覧会に、どんなものが出品されているかは興味深いが、2005年愛知万博のマレーシア館では800円のロティ・チャナイが、一時帰国したマレーシア在留邦人の間で話題になった。この値段ならマレーシアで20皿、シンガポールでも10皿以上食べられるからだ。ドリンクやサラダがセットだったわけでなく、二種類のカレーがついてくる、現地そのままのメニューだったようだ。
 万博でマレー系のナシ・レマでなく、インド系のロティ・チャナイが選ばれたのはそれなりの意味があると思う。大学内でも街中でも、マレー人と他の民族が一緒にテーブルを囲んでいるのをほとんど見かけない。宗教と食文化の異なる民族が一緒に食事を摂るにはどうしたらよいか。マレー料理はもちろん、国際食のはずの中華も、マレーシアではそれぞれの民族に限定されている。ハラルであることが大前提だから、浮上してくるのはインド系ムスリムの料理だ。どこのフードコード、街角にもあるママストール(屋台)がそれに当たる。
 マレー語で母方のおじを指すママ(Mamak)はインド系ムスリムの自称ではない。しかし、朝から晩まで開いていて、数リンギでお腹いっぱいになるママストールは、民族を問わずマレーシア人共通の食文化である。バレンタインデーのおすすめスポットの一つとして、ママストールを挙げている記事を読んだことがあるが、行きつけのママストールは知り合いが多すぎて止めた方がよいとも書かれていた。飲むのはテダレ、そして食べるのはロティ・チャナイである。
 日本でほとんど見かけず、あってもばかばかしく高価なロティ・チャナイをおみやげにしたいとき、スーパーで冷凍ものを買う手もあるが、KLIAならレベル2のフードコートで出発間際に焼き立てが買える。容器持参で日本に持ち帰れば、明日の朝ご飯はロティ・チャナイ。空港の大きさ以外でKLIAがチャンギ国際空港に勝るポイントの一つかもしれない。

初出:『南国新聞』2006.7.13

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このページは、舛谷鋭が2006年7月18日 12:18に書いたブログ記事です。

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