2005年1月アーカイブ

オリンポスの黄昏

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田中光二著、集英社文庫、1995
4章ある長いあとがきにも記された通り、著者がデビュー以来熱望されながらも避け続けて来た、亡父田中英光についての私小説。長くさがしていたが、おととい文庫ボックスの棚で発見。単行本(1992)は今でも手に入るが、文庫は絶版のよう。
この作家を紹介してくれたのは高校時代の同級生。『異星の人』や『白熱』を高校生のとき出たばかりの文庫で読んだのを覚えている。その同級生は当時の私からすると老成した趣味人で、他に小林信彦や自転車など結構影響された。今はどうしているだろう。

 9月21日から24日にかけ、山東省の東端、威海で行われた第13回世界華文文学国際学術シンポジウムに参加した。三方を海に囲まれた威海は 1951年までの呼称「威海衛」で知れる通り、日清戦争で北洋艦隊が破れた古戦場で、学会後は市内見学の他、劉公島の中国甲午戦争博物館の見学も組み込まれた。威海は1992年の中韓国交樹立後、最初に中韓航路が開かれた土地柄、韓国企業の進出が盛んで韓国製品があふれ、専門デパート「韓国城」さえあった。
 今回のシンポジウムの主催は省都済南の山東大学だが、会場には同大威海分校の国際学術センターが当てられた。渤海を望む学術センターは2003年開業。ブロードバンド完備の126室の四つ星ホテルを併設した国際会議場である。オーシャンビューの大ホールと8つの会議室を備え、20カ国200名が参加した国際学会の開催場所として十分な施設だった。
 世界華文文学国際学術シンポジウムは、第1回の台湾香港文学学術シンポジウムが、1982年に広州の曁南大学で開催されて以来、中国大陸以外の中国語文学の研究集会として、中国国内で中心的な地位を占めてきた。中国大陸における「港台文学」の研究は、文革後の1979年から開始され、すでに20年以上に及ぶ。こうした動きは、高等教育機関の文学教育の中に、大陸以外の中国語文学を位置付けようとする試みと平行する。1986年の第3回で早くも「両岸」外の海外中国語文学が研究対象に加えられている。第4回では広東社会科学院の許翼心が「世界華文文学」ということばを初めて使い、中国語文学が世界文学の中で英語、スペイン語、アラビア語文学などと同じくグローバルな存在であることを示す概念として、第6回以降は大会名称としても用いられている。
 開始当初は僑郷福建、広東の研究機関による地域的な集会であったが、回を重ねるごとに全国規模の研究集会として参加者を増やしている。ほぼ毎回、提出された論文を集めた論文集が出版され、第11回以降は開催時には論文集ができあがっているという手際の良さだ。 今回私は初めて出席したが、それは『新馬百年華文小説史』(山東文芸出版社,1999)の著者で山東大学の黄万華教授を中心に開催されたからであり、彼の華人文学研究が他の多くのように引き写しでなく、作品を読んで書くという当り前の研究手法であることに信頼を寄せているからである。
 大会中に『世界華文文学大系』が、復旦大学の陳思和教授主編で出版予定と耳にした。教科書を完備し、学問分野としての地位向上を目指していることが見て取れる。日本巻は廖赤陽氏が担当予定だが、中国語作品のみ掲載とのことで、陳舜臣、邱永漢らの日本語作品を含まず、新華僑の作品だけで成り立つか少々心配ではある。
 中国におけるこの分野の専門誌は、北京文聯の『世界華文文学』(旧『四海』)のほか、福建省文聯の『台港文学選刊』、汕頭大学の『華文文学』、江蘇省社会科学院の『世界華文文学論壇』など数誌に登り、中国以外の国の華人文学研究者としてはうらやましい限りだ。
 今回は2002年にようやく広州で設立大会を行った中国世界華文文学学会も、山東大や地元山東省僑務弁公室、威海市政府とともに主催に名を連ねた。出席者の中で特に目立ったのはイギリス在住の人気女流作家虹影で、学会以外にも大学で講演したり、取材を受けたりしていた。なお、次回2006 年も中国東北、長春の吉林大学での開催が予定されている。

世界華文文学国際学術シンポジウム開催一覧:
開催年 名称(開催地、主な主催機関)
1. 1982 第1回台湾香港文学学術討論会(広州、曁南大学)
2. 1984 第2回全国台湾香港文学学術討論会(廈門、廈門大学)
3. 1986 第3回全国台港及海外華文文学学術討論会(深圳、深圳大学)
4. 1989 第4回全国台港曁海外華文文学学術討論会(上海、復旦大学)
5. 1991 第5回台港澳曁海外海外華文文学国際学術研討会(広州、中山大学)
6. 1993 第6回世界華文文学国際学術?研討会(江西廬山)
7. 1994 第7回世界華文文学国際学術?研討会(雲南玉渓)
8. 1996 第8回世界華文文学国際学術?研討会(南京、江蘇省社会科学院)
9. 1997 第9回世界華文文学国際研討会(北京、中国社会科学院)
10. 1999 第10回世界華文文学国際学術研討会(福建泉州、華僑大学)
11. 2000 第11回世界華文文学国際学術研討会(広東汕頭、汕頭大学)
12. 2002 第12回世界華文文学国際学術研討会(上海、復旦大学)
13. 2004 第13回世界華文文学国際学術研討会(威海、山東大学)

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