華人ネットのハブ組織

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 華人ネットワークと言われることがあるが、実際どのようなものだろう。華僑研究は華僑個人と華人団体(社団)を基本要素とするが、後者は広東、潮汕などの地縁、同姓などの血縁、校友会などの学縁が代表的だ。こうした「縁」で結ばれた社団が「ネットワーク」の実態だろうが、全球化(グローバリゼーション)の進展に伴い、多様なネットワークが存在し、機能している。
 2009年5月9日から11日にかけて広州・曁南大学で行われた華僑研究・文献収蔵機関連合会 (WCILCOS)の第4回国際会議に参加したが、これも紛れなく華人ネットの一例だろう。この国際会合は世界の華僑知識人を中心に、図書館人と華僑研究 に関わる非華人研究者が一同に介し、2000年にオハイオで第一回が開かれて以来、2003年の香港、2005年のシンガポールと回を重ね、今回初めて中国大陸で開催された。
 同種の「知」を頼りに世界を渡り歩く「サジャナー」の学会として、世界華僑研究学会(ISSCO)があるが、こちらも1992年以来六回目にしてはじめて、2007年に中国(北京大学)で開催された。このように華僑(海外華人)の僑郷(華僑の故郷、広東、福建等) を含む中国大陸との距離の取り方は実に興味深いが、2007年日本中華年に神戸で開催された第9回世界華商大会が、第3回バンコク大会で参加者が急増したのは、主に大陸からの参加者によるもので、こちらも2001年の第六回南京大会でようやく中国大陸での開催を果たしている。各ネットワークとも大陸の過剰な影響を考慮し、ある程度組織が安定してから大陸に足を踏み入れているように思われる。
 WCILCOSについて言えば、もともと戦前の日本留学組である香港の銀行家、故邵友保氏が子息の母校であるオハイオ大学へ1993年に寄付した50万ドルの基金によるオハイオ大学図書館華僑文献研 究センターが発端で、当初運営は厦門大学出身で新華僑の陳力人現コーネル大学東アジア図書館長に託されていた。
 このように老華僑と新華僑のコラボでネットワークが機能している例は他の知的ネットも同様で、その背景として改革開放以降の中国大陸からの新華僑が、留学生として欧米のアカデ ミズムを渡り歩くという人の移動があるのだろう。今回の参加者の中でも厦門、復旦大からオハイオ大、シンガポール国立大学を経て、現在イギリス・マンチェスター大学中国研究所長と孔子学院長を兼ねる劉宏の道程は、老華僑側の代表的華僑研究者であるISSCO初代会長ワン・ガンウーのインドネシア、マレーシア、オーストラリア、香港、シンガポールという道のりを彷彿とさせる。
 会場では研究者個人参加のISSCOと違って、文書館から機関参加の出席者も多く、たとえば大陸出身のイギリス新華僑が台湾の中央研究院からの参加者に声を掛け、中国大陸における学術プロジェクトを模索するなど、機 関同士の事例が見受けられた。北京より広州など南の方が仕事が進めやすいですね、などと話し合う様子は実感が籠もっていた。文革直後に40年代から60年代生まれが大学に同期入学した「老三届」で、今や中国や世界各地に散った同級生たちが、同窓会さながらに歓談している姿も見られ、主に学縁を拠り所にした 「華人ネットワーク」の具体例を実感することができた。場所が変わると参加者にも入れ替わりがあるが、次回カナダ大会も楽しみだ。
(初出:アジアへの旅2、サーチナ

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このページは、舛谷鋭が2009年5月20日 17:01に書いたブログ記事です。

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