懐かしのコピティアム

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 マレーシアから帰国して懐かしい食は、ママストールのロティチャナイとコピティアムのカヤトースト。ロティチャナイは都内でキャラバンカー販売がはじまり、カヤトーストはららぽーと豊洲に出店したと聞いて心躍った。でも、実際行ってみると何か違う。味ではなく、雰囲気が懐かしさを醸し出していたことを改めて知る。
 コピティアムとは中国語福建方言で「珈琲店」のことである。華人の五大幫(グループ)の中でも、福州人、海南人が経営しているのがほとんどだ。ショップハウス(店屋)は日本で言えば町家だが、コピティアムはこの回廊で連なる二〜三階建ての長屋の一階に、オープンカフェとして朝から晩まで営業している店が多い。天井には直付けの大きな扇風機がぐるぐる回っており、虫除けの役目も果たしている。奥のスペースは冷房が効いていることもある。
 テーブルクロスのない丸卓と、背もたれのないイスに好みの場所を決めると、それぞれ店によって特別の入れ方をしたコーヒーを、コピO(ブラック/福建南部方言)、コピC(砂糖ミルク入り/海南方言)などと頼む。カヤトーストとゆで卵も欠かせない。
 シンガポールのキリニーのようにファストフードさながらのチェーン店もあるが、イポーやクアラルンプールで展開するオールドタウンカフェ(旧街場珈琲館)チェーンは、古風を売り物にしている。ジャランペタリンの店舗などは昔からあると勘違いする人も多いだろう。
 古くて新しいコピティアムは近年ブームのようで、クラン、 ティアラ2B通りのアマ・コピティアムは正調海南珈琲店である。二〇〇五年の開店時にはシンガポールから海南会館のメンバーが駆けつけた。コタキナバルのオーストラリア・プレイスの古い印刷所を改装し、二〇〇四年に開店した博物館コピティアムは早くも観光名所となっている。
 少なくとも華人にとって、こうしたコピティアムは、今や文化的な存在であるらしい。たとえばン・ピンホ制作の『Kopitiam』(1997)はシンガポールのテレビドラマだ。亡き父のコーヒーショップを継いだマリーは、店を改装しコピティアムと呼ぶことにした。友達のスティーブや俳優修行中のジョー、シンガポーリアンで法律家のスーザンも加わって、彼女の店は大にぎわい・・・他にも短編映画や小説など、コピティアムを舞台とした作品は少なくない。
 西海岸の都市化された町並みの中にあって、古き良きコピティアムは昔日を懐かしむ場として機能している。そして、同じく西海岸の都市を訪れることの多い観光客にとっても、憩いの場であり続けることだろう。

初出:『南国新聞』2006.10.19

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このページは、舛谷鋭が2006年10月19日 00:21に書いたブログ記事です。

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