愛しのドリアン

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 一時帰国者の増える夏休み頃、道ばたでパラソルを見ると心躍る。フルーツ屋台は数あれど、お目当てはもちろんドリアン。容器持参で中身だけ持ち帰り、家族四人の夕食はドリアン。最近はローカルでも、コレステロールがなどと避ける向きもあるが、こと外国人にとってこの強烈なシロモノは、食文化への理解度、順応性を示す格好の指標となる。ちなみに我がゼミはドリアン食いが参加の条件である。納豆に顔をしかめる知日派をどう思うか、と問いたい。
 ドリ・アン(とげっ子)というマレー語が示す通り、マレー半島、スマトラ島が原産だが、国際流通するドリアンはタイ産が圧倒的だ。タイ東部ものの旬は5、6月とマレーシアより早めで、品種改良が進みともかく甘い。ペナンでタイ人とドリアンを囲んでいたときのこと。外れだと言うので味見すると、わずかな苦みを含む見事な味。甘い一辺倒に慣れた口には合わないらしい。私のベスト3は、カンボジア・カンポットの赤か黄の印付きドリアン、インドネシアが誇るメダンドリアン、そして1月のクチン市場のドリアンだ。どれも甘さの中にわずかな苦みを伴う逸品だった。
 クチンのは小振りなカンポンドリアンで、あまりに美味しかったので、友人の車の後部座席に十数個積み込み、庭先でぽんぽん割って食べ続けた。十個(房でなく)食べ切ったところでさすがにお腹がぱんぱんになり、母堂が洗面器で持ってきてくれた濃い塩水をゆっくり飲み、命拾いした。
 シンガポールの巨大ドリアン(エスプラネード)はもちろん、地名のカンポン・ドリアン、アミル・ムハマドの映画『ビッグ・ドリアン』などドリアンものにはつい目が行く。ドドル(餅米の一口羊羹)はドリアン味を選ぶし、マラッカ特産タン・キムホック博士のお店では干しドリアン、スプテの日本人会のスーパーのフルーツジャムは、人気のマンゴーやマンゴスチンを除けてドリアンジャムを取る。練りドリアンも嫌いではない。ドリアンシーズンに見かけるドリアンケーキ、パフ、パンケーキなどの洋菓子や、マンゴープリンならぬドリアンプリンも捨てがたい。
 ジャカルタのチャイナタウンでは、華語断絶の32年間を含め、「新合発」と刻印されたドリアン味の月餅が売り続けられていた。ラードを使わず白い粉が吹くハラル月餅は、厳しい排華の時代、ドリアンゆえ許されたのだろうか。
 学名は「強い香り」だそうだが、はじめて食べた香港で、ホテルに持ち込んでひどいことになった。ロビーは大丈夫だったが、エレベータが開くともう臭いがした。上階に行くにつれきつくなり、私のフロアには鼻を手で覆う人がいた。部屋に近づくと更に臭いが強くなり、入るなりあわてて腹に収めた。近所のデサスリハタマスの歯医者はなぜか冷凍ドリアンを売っていて、オフシーズンには有り難かったが、凍らせるとほとんど臭わないことを知った。日本への持ち帰りも可能だろう。しかし日本マレーシア自由貿易協定の発効で、マレーシアドリアンの日本上陸も近いと信じよう。
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初出:『南国新聞』2006.9.14

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このページは、舛谷鋭が2006年9月25日 22:43に書いたブログ記事です。

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