クアラルンプール滞在者による研究会について

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 クアラルンプールにおける研究会と言えば、すでにUM、UKM、次回UPMで五回目を開催予定の国際マレーシア研究会議(MSC)が思いつく。二回目頃からJAMS会員を中心に日本人参加者も多く、会議後に津々浦々から集まった日本のマレーシア研究者が、エスクワイヤやオーバーシーレストランなどに会し、楽しく懇親した記憶がある。MSC会場では現地や日本以外の海外研究者との交流に忙しく、あまり日本人とゆっくり話したことはないが、前記のような席で、特に現地滞在者の話しを聞くのはとても刺激になったし、細かな生活の実際を質問できるのは有り難かった。
 前回MSC4のあと、JAMSメーリングリストに「研究会へのお誘い」という記事が投稿されている。(2004年9月)クアラルンプール滞在者を中心に研究会を開催したいという趣旨で、在マレーシア日本大使館の川端隆史氏(当時)によるものだった。現地滞在中の「マレーシア・東南アジア研究者・大学院生、政府関係機関、民間企業、ジャーナリストの方々」の自由な議論の場、という位置づけだった。その後2005年1月から3月にかけ、京都大学バンギ・フィールドステーションでの連続3回のワークショップ「それぞれのフィールドワーク—マレーシア研究の可能性を再考する」があり、内容については21世紀COEプログラムページに詳しいが、現地でフィールドワーク中の研究者だけでなく、当時マレーシア滞在中の日本人が会する機会ともなった。こうした流れの中で、滞在者による研究会が定期的に開催されていったように思う。
 多文化社会に分け入って現地滞在している日本人の生活圏は実に様々だ。私自身、2005年度をマラヤ大で過ごし、授業内外での学生との交流、スタッフとの日々のやりとり、研究対象である華人社会への関与などでいろいろ見聞きすることができた。しかし、その後開催された滞在者による研究会と引き続く懇親会の席で、マラヤ大、国民大、国際イスラム大の日本人と大使館や国際交流基金などのスタッフ、ジャーナリスト、ビジネスマンの方々など、それぞれの立場からの見方、理解に触れるにつけ、浅学な視野が広がる思いだった。資料の所在や具体的な生活の問題など、ずっと悩んでいた技術的な事柄があっと言う間に解決することも度々あった。お互いの人脈を交換し、現地ならではの直接取材による研究を始める糧にしたり、平板な文書館通いの合間の食事会として純粋に楽しむ向きもあったように思う。参加者の思いはそれぞれだが、毎回10名前後の参加者がいたところを見ると、それぞれ得るところがあったのだろう。研究会は以下の通り、ラマダン期間などを除き、ほぼ隔月で開催されたが、夏期休暇中の会合は日本からの参加者が多かったり、英語セッションではマレーシア人や中国からの留学生の参加も見られた。
 しかし、人の移動が激しいのが現地滞在者社会の常である。2005年下半期から国民大、国際イスラム大の主要メンバーが帰国し、2006年に入って発起人の在日本大使館川端氏も異動され、マラヤ大のメンバーのうち3名は、年半ばまでには帰国が決まっていた。当初の運営者がいなくなれば、開催されなくなるのが私的な研究会の運命である。しかし、何とも惜しい、こうした現地での会合を存続させることはできないか。残されたマラヤ大のメンバーを中心に相談した結果、これまでの全く自由な研究会から半歩踏み出し、運営ルールの策定、ウェブの開設( http://jamskl.seesaa.net/ )、とりあえず2005年度中のJAMS地区研究会としての認定等、続けるためのシステムを整えた。毎回懸案だった開催場所も、国際交流基金クアラルンプール日本文化センター所長の協力もあり、定常化のめどが立った。
 呼び方も決まっていなかったこの「研究会」が、今後どのように消長していくか私にはわからない。それぞれがマレーシア社会の中で忙しく調査、研究、業務を進めていく滞在者社会にあっては、当初の全く決めごとのない形態が合っているのかもしれない。ひとまず長期滞在者の列から離れる私としては、今後も入れ替わり続けるであろう、現地メンバーの活動を見守るばかりである。なお、マレーシアへ渡航、滞在のご予定のある方は、上記のウェブを通じ、研究会の世話人宛にメールでお知らせいただければと思う。会員諸氏のご関心とご協力を請う次第である。

クアラルンプール地区マレーシア研究会2005年度会合一覧
(所属はすべて開催当時、敬称略)

日時:2005年5月13日(金)18時
場所:Bangsar Permai
報告者、題目:
東條哲郎(マラヤ大学/東京大学)
「ペラ州錫採掘における地域性−歴史学的アプローチ−」
塩崎悠輝(国際イスラーム大学)
「キー・ワードでみるマレーシアのイスラーム」

日時:2005年7月28日(木)18時
場所:国際交流基金クアラルンプール日本文化センター
報告者:滝口健(国際交流基金クアラルンプール日本文化センター)
題目「マレーシアの舞台芸術、その現状と展望〜現代演劇を中心に」

日時:2005年9月23日(金)
場所:The Taj, Crown Princess Hotel
話題提供者:鳥丸豊(Managing Director, OTAX Electronics Malaysia)
題目「マレーシア日系企業経営とその周辺」

日時:2006年10月21日(金)19時
場所:クアラルンプール日本人会
報告者:Josh Hong(UNHCRクアラルンプール事務所職員、マレーシアキニ・コラムニスト)
題目「History memories in regard to WWII and the clash of Sino-Malay nationalisms in Malaysia」

日時:2006年2月8日(水)
場所:クアラルンプール国際交流基金会議室
報告者:川端隆史(在マレーシア日本大使館)
題目「これまでのマレーシア、これからのマレーシア〜2000年8月6日から2006年2月24日の私の体験から〜」

日時:2006年3月11日(土)
場所:国際交流基金クアラルンプール日本文化センター会議室
報告者:舛谷鋭(マラヤ大学/立教大学)
題目「マレーシア華人社会における反日世論の形成」

※以下は京都大学バンギ・フィールドステーションの活動だが、報告者は当研究会の主要メンバーでもあった。
日時:2005年9月7日(水)
場所:マレーシア国民大学マレー文明・世界研究所
報告者、題目:
伊賀司(マラヤ大学/神戸大学)
「マレーシアの政党政治への視角:70〜80年代UMNO党内政治を中心に」
塩崎悠輝(国際イスラーム大学)
「マレーシア社会におけるイスラーム主義運動と公共圏の形成」

初出:日本マレーシア研究会会報『JAMS News』34、2006.3

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このページは、舛谷鋭が2006年7月 9日 20:46に書いたブログ記事です。

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