世界海外華人研究学会(ISSCO)参加報告

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 本年5月、デンマークで開催された世界海外華人研究学会(International Society for the Study of Chinese Overseas: ISSCO)第5回大会に参加した。この学会の国際大会は4年ごとだが、1992年のカリフォルニア「落地生根シンポジウム」以来、香港(1994)、マニラ(1998)、台北(2001)と各回200名前後の華人研究者を集めて開催されている。今回は初めてのヨーロッパ開催とあって参加者は約100名だったが、コペンハーゲン郊外のヘルシンゴーのLo-skolen国際会議場はデンマーク建築の粋を集めた海沿いの景勝で、北欧アジア研究所(NIAS) の手作りの運営と相俟って、終始和やかな雰囲気だった。大会のテーマは"New Chinese Migrants and Globalisation of Chinese Overseas Migration."で、初日の長島要一コペンハーゲン大学アジア研究学部長のウエルカムスピーチにはじまり、2日目午後から研究発表が3つの会場で計 24セッション行われた。恒例のワン・グンウー会長の基調講演は2日目午前。毎回"Luodi-shenggen"(落地生根)、"New National Identities"、"Diaspora"、"Sojourner"など、そのときどきに華僑華人研究のみならず、移民研究のキーコンセプトを提供して来た重要なスピーチだが、今回のキーワードは"Liuxue"(留学)だった。個人のための"Study Abroad"でなく、社会のための"Liuxue"ということのようで、主に1980年代以降の中国大陸から北米への大量移民の帰国と活躍、いわゆる「海亀派」を踏まえたものだった。こうした全体会は英語を媒介言語として行われたが、セッションごとに使用言語を分けており、中国語セッションもいくつかあった。
 他に世界的な華人の集会としてリー・クアンユーの肝いりで、1991年からシンガポール、香港、バンコク、バンクーバー、メルボルン、南京、クアラルンプール各地で開催され、2005年に第8回大会が神戸で予定されている世界華商大会があるが、ISSCOは研究者主体で、華人中心ではあるものの、欧米日本人など非華人も組織に関係していることが特徴だろう。
 ISSCOは発足以来、ワン・グンウー会長の下、大陸、台湾、海外を問わず、唯一の国際的な華人研究学会として結束してきたが、3日目夜の会員総会で、ワン会長の「退位」とフィリピン華裔青年聯合会 (KAISA)のテレジタ・アン・シーの二代目会長就任が報告された。ワン初代会長はスラバヤ生まれの日本軍政期マラヤ育ち、国共内戦期に南京大で学び、マラヤ大、ロンドン大、オーストラリア国立大、香港大を経て、現在シンガポール東アジア研究所長という"Sojourner"だが、学識と政治力でこれまで世界の華人研究学界をまとめて来た。フィリピン華人女性のテレジタ・アン・シーによって、ISSCOがグローバル化した華人社会の中で今後どのような動きを見せるか注目される。非両岸研究者の会長就任と引き換えと言うわけではないだろうが、次回第6回国際大会は、2007年に中国大陸の首都北京での開催が予定されている。
 なお、過去の国際大会とテーマは以下の通りである。また、これらとは別に地区大会がオーストラリアやキューバ、中国ではスワトウやアモイでも開催されている。

1. Berkeley (1992): Luodi shenggen: The Legal, Political, and Economic Status of Chinese in the Diaspora convened by UC, Berkeley.
2. Hong Kong (1994): The Last Half Century of Chinese Overseas: Comparative Perspectives convened by Hong Kong .
3. Manila (1998): Intercultural Relations, Cultural Transformation of ethnic Chinese communities convened by Kaiasa Para Sa Kaunlaran, Inc. and Ateneo de Manila.
4. Taipei (2001): New Frontiers for Chinese Overseas Research convened by Academia Sinica.
5. Copenhagen (2004): New Chinese Migrants and Globalisation of Chinese Overseas Migration convened by NIAS and the Department of Asian Studies at the University of Copenhagen.

初出:『ニュースレター 』5、立教大学人の移動と文化変容研究センター、2004.7

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このページは、舛谷鋭が2004年7月 7日 21:26に書いたブログ記事です。

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