革命老区の多くは経済発展の遅れた内陸地域であり、同じく格差解消策である三農観光と重なる地域も少なくない。三農観光とは農民、農業、農村の三農問題それぞれに、観光市場としての農民観光、観光資源としての農業観光、観光地としての農村観光を当てはめた、観光によるソフトな開発の一種である。
三農観光は80年代以降、中国国家旅遊局が都市と農村の経済格差解消を目的に、農村地帯の観光開発と農村振興のために始めた施策で、2005年の第16期中央委員会第5回全体会議で打ち出された政治目標であり、70年代韓国朴正煕政権の農村近代化策、セマウル運動をモデルにした社会主義新農村建設の具体策の一つでもある。国家旅遊局の10の農村観光テーマには、農村リゾート(農家楽)、周辺観光拠点、観光都市建設、伝統文化、民族文化、特産品、近代農業、農業観光、環境保護などとともに紅色旅遊が含まれている。
このように「革命」を観光資源として地域発展を進めることは、紅色遺産を従来の政治情報から経済効果へ転換したものと言えるが、たとえば湖南省韶山の毛沢東生家は、周辺からの修学旅行目的地であり、学校の入学シーズン(9月)には宿泊を伴うオリエンテーションも行われている。韶山は中国政府にとって愛国教育基地の筆頭だが、すでに地元住民による様々な試みを生み出している。たとえば北京や上海でも見かける「毛家菜」(毛家の料理)は登録商標として韶山の食文化のシンボルとなり、湖南料理の有力な一変種として全中国でチェーン展開さえしている。
こうした地方に観光客は「郷愁、精神的啓発、著名観光地、信仰心」などの理由で訪れるという。おおまかに世代論を当てはめると、ノスタルジーは中年以上の農民・農村出身者、精神的啓発は学生・インテリ・公務員、著名観光地は若者であるとの見方があり、ほぼ同意できるが、2005年に上海で行われた調査によると、誰がレッド・ツーリズムに興味を持つかがより具体的になる。
年齢層では40歳台、学歴では小中学校卒と大学以上卒、家庭収入では年収80,000元以上の高所得者層で、他の階層に比べてレッド・ツーリズムに関心を持つという結果が出ている。すなわち、60年代生まれの高学歴、高所得者層のプレ一人っ子世代であり、彼らは2005年の反日デモの中心だった「噴青」(怒れる若者)世代と違った紅色志向を持つことが予想される。
いずれにせよ、毛沢東への崇拝は、あたかも海外華人の関帝(関羽)信仰を思わせるほど幅広く、神像礼拝や祈願成就の暁にはお礼参りさえ存在する。愛国主義教育の成果の一つと言わざるを得ないが、レッド・ツーリズムは毛を頂点とする中国共産党の正当性を確認し、かつ現代の党が失ったものを再発見する機会ともなる。1920−30年代のまだ若く美しかった中国共産党を指向する政府と民衆双方の合致の意味はそこにある。と同時にレッド・ツーリズム体験は、内陸部の現状を沿海部の「都会人」が垣間見、中国の国土の広大さ、問題の根深さを再認識し、中国全体への理解を促す機会ともなるだろう。
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