本学は2014年度、日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)に加盟したが、公認サイトgaccoでの最初の科目「交流文学研究 ~東南アジアへの旅~」は私が担当した。放送大学や教育テレビ出演経験を持つ諸先輩方を差し置いて僭越だが、大規模オンライン公開講座MOOC(Massive Open Online Courses)は、最大のスタンフォード「Coursera」でさえ2012年から、日本ではJMOOCが2013年11月に設立され、NTTナレッジ・スクウェアによるgaccoが2014年4月開講という黎明期で、何もかも試行錯誤、IT業界言うところの人柱としてお役に立てたらという心積もりだった。
 5月の打ち合わせ、6月のプロモ撮影、8月のスタジオに籠っての講座撮影の後、10月末の開講は在外研究先のシンガポールで迎え、11月には一時帰国し反転学習(スクーリング)。90分講義4コマ分のスライド+動画講座は12月半ばに終了した。1コマごとにeラーニングのクイズがあり、最終レポートは受講者同士が相互採点するため、厳密なルーブリックが求められた。
 登録者3373名で修了者453名は13%強だが、通常1割切るそうなので、低くはないだろう。登録者1万人を超える講座もあるので少数精鋭と言ったらよいか。何が起こるかわからなかったので、いざというとき踏ん張れるよう、手慣れた内容から本当に伝えたいことだけ話させてもらった。池袋タッカーや新座121の大教室講義と比べても桁違いの受講者は間違いなかったので、少なければ少ないほどよいと思っていた。
高校生から後期高齢者まで、海外在住者も含め、一部の方とは反転学習でお会いしたが、いずれも端倪すべからざる面々だった。受講者掲示板で講義の内容はWikipediaさながらチェックが入り、言い間違いは容赦なく指摘される。この規模の掲示板は放っておいても受講者のやりとりで解決するものを、最初は逐一対応し、時節柄、歴史認識の指摘まで受け、あやうく立ち往生しかけた。他講座の状況を確認し一方的に削除せず、本学にはこの種の対応で体調を崩した同僚がいたことも見知っていたので、概ね以下のように正面から対峙した。
 「日本で日本語で言っていることを、英語でも中国語でも、現地で通じることばで同じ内容で言えるものにしようということです。この作業をしていると、現地の歴史観とぶつかります。歴史は解釈ですから、様々な語り方がありますが、相手が誤解しているならわかるように正す、対立しても変えられないところは正直に言うということです。歴史認識について、同じ人が日本語と英語で違うことを言っている場を意外なほど多く見かけるので、そういう二枚舌は止めようと言う自分への戒めでもあります。」(ディスカッション14/11/11発言抜粋)
 幸い攻撃的な発言は収まり、その後の講義にも「戦争」が含まれていたが、背景を含め理解しようという受講者が多かったように思う。
 観光学部発信の講座だが、名称は「~文学」。そんなわかりにくさも、受講後アンケートを読むと、教員の意図は伝わっていたらしい。学部でよくある海外引率さながら、東南アジアの文学を語りつつ、あちこち連れまわし、発見や意味を伝えていく。受講後に旅したくなったという人も多く、本当に東南アジアへ行き、今まで気付かなかったクレオール文化に触れた、などという嬉しい報告もあった。
 すでに2講座目もはじまり、15年度講座の担当者募集もあった。アシスタントとメディアセンター諸氏の労苦に足る感謝のことばもないが、今後はこの試みが根付くのを見守っていきたい。

(初出:立教大学 大学教育開発・支援センターTL部会ニュースレター「MOVE 第15号」2015.2)