« 研究会のご案内 | | 日本マレーシア研究会関西地区例会のご案内 »

2005年12月関東地区例会報告要旨

会員各位

2005年12月の関東地区例会の報告要旨をお届けいたします。


*****************************************************
東南アジア史学会関東地区12月例会
2005年12月17日(土)
於:東京大学赤門総合研究棟849号教室
参加者:18名
報告者:塩谷もも(東京外国語大学)
題目:「儀礼にみる社会関係とイスラム主義の諸相:中部ジャワの事例から」
コメント:染谷臣道(国際基督教大学)

[報告要旨]
 本報告では、報告者自身のフィールドワークの結果に基づき、ジャワの共食儀礼ス
ラマタンについて、従来の定義の再検討が行われるとともに、調査村における儀礼の
変化とその背景が考察される。
 調査地は、中部ジャワ州スラカルタ市郊外の一集落スンダリ(仮称)である。スン
ダリは世帯数が236であり、3つの隣組から構成される(第1隣組73世帯、第2隣組62世
帯、第3隣組101世帯)。住民の職業は多様であり様々な職種の人たちが交じり合って
住んでいる地域であるが、男性では建設業労働者、運転手、公務員など、女性では主
婦、下宿・食堂経営、スナック作り、裁縫業などに従事する人が多い。報告者はここ
で2001年3月から2003年2月まで現地調査を行った。
 調査地の住民はその居住期間によって旧住民と新住民とに類別されうる。新住民は
1970年代後半以降の大学の設置や、80年代後半からの住宅地建設などによって増加し
たもので、新旧住民の間には、職業、経済状態、学歴、隣人との付き合い方などに違
いがある。また、スンダリ住民のほとんどがムスリムであるが、ムハマディアやナフ
ダトゥール・ウラマなど様々なイスラムの「派」によって違いが見られる。とくに、
排他的なイスラム組織LDIIの成員とそれ以外の人々との対照が際立っている(LDIIは
全世帯の15%程度を占める。第1隣組に多い)。以上が調査地の概要である。
 次に、従来のスラマタン定義の再検討を試みる。クリフォード・ギアツは、男性に
よる祈りと料理分配の儀礼をスラマタンとして記述したが、報告者はこれを狭義のス
ラマタンと位置づける。男性による共食は儀礼全体の一要素に過ぎないにもかかわら
ず、それが他の儀礼から切り離された独立の儀礼であるかのような印象を与えてし
まったところにギアツの問題点があった。また、儀礼が何の機会に催されたものであ
るかにも留意する必要がある。例えば、死後儀礼や慶事にともなって行われるものな
ど、住民にとっては「何のスラマタンか」が重要であり、それぞれで準備される料理
など儀礼の内容に違いがある。
 現在の調査地では狭義のスラマタンはほとんど行われていない。これは狭義のスラ
マタンがイスラムの教義に当てはまらないものとして住民たちによって否定的に評価
されているためである。霊的存在が宿る木に供え物をする慣行が廃れてきたことも同
じように解釈できる。報告者の観察した誕生儀礼やサドラナン(断食月の前にモスク
で祖先へ祈りを捧げる儀礼)においても、ジャワ的な要素とイスラム的な要素が見ら
れるが、イスラム的な色彩がより濃くなる傾向にある。このような傾向の背後には、
狭義のスラマタンなどの儀礼に否定的なムハマディアの影響力の強まりや、LDIIが自
らの宗教的な立場を主張するためにイスラムの要素を強調した儀礼を行うようになっ
たことなどがあると考えられる。このような状況下で、イスラム諸派間の教義の違
い、ひいては日常における社会的な差異やコンフリクトを乗り越える手段として、儀
礼の場でイスラムの要素が強調されるようになったのだろう。
 また、女性たちが儀礼の変化に及ぼす影響に注意を向ける必要がある。というの
は、女性たちは供え物や料理の準備を担当するため、儀礼の形式決定に果たす役割が
大きいからである。調査地スンダリでは1980年代から定期的に宗教講話会プガジアン
が行われるようになったが、現在、この講話会は女性を中心に行われている。女性同
士の関係においてイスラムへの熱心さが社会的地位と関わっており、そのために(た
とえ外面的なものにすぎないとしても)女性たちの宗教に対する意識が高まり、儀礼
内容の変化に直接的な影響力を及ぼしていると考えられる。
 以上の考察から、スラマタンは、ギアツの定義よりも広く、さまざまな要素からな
る一連の儀礼として捉えるべきであり、そうした儀礼全体の動態的な変化は、調査地
における住民の社会関係と切り離して考えることはできないということが確認され
る。
 
[コメントおよび質疑応答]
コメント(染谷臣道):たしかにギアツが現地の言葉を忠実に使用してスラマタンと
いう用語を用いたのかは疑問である。ところで、住民のイスラムに対する姿勢は、み
んながやるからそれに従うとか、長いものには巻かれろとかいう消極的な態度のよう
に思えるが、イスラム的要素が強調される過程で住民の側から反発が生じなかったの
か?—A:儀礼のときに料理を中心となって作るある女性(それぞれの儀礼に必要な
料理について知識を有している)は、イスラム的要素の強調をあまり歓迎していない
様子であったが、それについて明言することはなかった。町内の有力者にはイスラム
志向の強い人が多いので、それにはばかっているのだろう。
Q:表題の「イスラム主義」とはどういった概念を想定しているのか?イスラム改革
派は一言では括れない多様な存在では?(川島)—A:「イスラム主義」は、儀礼の
中のイスラム的要素が強調される傾向を指す適当な用語を見つけられなかったので便
宜的に用いただけである。イスラムの多様性は認識しているが、調査地の住民にとっ
ては、とくにLDIIと非LDIIとの対照が重要である。非LDIIの人々は、LDIIを「特殊
な」ムスリムとして「一般の」ムスリムである自分たちとは区別して考えている。
Q:LDIIか非LDIIかということは、旧住民か新住民かということと関係あるか?(倉
沢)—A:関係ない。ただ、LDIIは親戚関係を通じて広まっている。第1隣組では親戚
関係が強い。また、LDII世帯の特徴として、子供の数が多いことが指摘できる。な
お、町内有力者のイスラム志向はLDIIとは別物である。
Q:LDIIが調査地に入ってきたのはいつ頃か?(倉沢)—A:1960年代から。
Q:女性たちが率先して儀礼の変化を引き起こしたと考えられるのか?それとも、女
性たちの事例を見てもこのような変化の一端を見出させるということなのか?(土
佐)—A:後者か。しかし、現時点ではまだ確信的な結論を出すに至っていない。
Q:儀礼の頻度や参加者の構成は変化したか?(奈良)—A:昔の方が頻繁に行われて
いた。また、参加者の人数は減少し、高齢化も進んでいる。
Q:儀礼の変化は都市化の影響と考えられないか?(染谷)—A:都市化の影響は考え
るべき。忙しいキャリアウーマンが儀礼用の食事にケータリングを利用した事例があ
る。このことが他の住民に批判されたことを考えると、儀礼の準備が原則としては労
働奉仕による相互扶助であるという通念は残存しているようだ。

ここにあげた以外の点についても参加者の間で活発な議論がなされた。
(文責・長田紀之(東大院修士)

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://cgi.rikkyo.ac.jp/jssah/mt/mt-tb.cgi/45

この一覧は、次のエントリーを参照しています: 2005年12月関東地区例会報告要旨:

» Tylenol scare. from Tylenol allergy sinus daytime.
Tylenol scholarships. Tylenol recall. Tylenol liver damage. [詳しくはこちら]