政治の中の台湾文学―李喬と陳映真をめぐる研討会

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山田 敬三(北京大学/神戸大学)

 

 両岸の研究者が一堂に会して共通のテーマでディスカッションするようになってから、すでに30年近い歳月が経過しています。学問の世界では一見、自由は謳歌されているのですが、しかし両岸問題に限っていえば、実際には「敏感」な要因がいつもはたらいていました。台湾の統一と独立をめぐるせめぎ合いです。そのため、数年前に参加した「世界華文文学国際シンポジウム」でも私の論文は論集から除外されました。そのとき中国の関係者は、私が「敏感」な問題にふれているので、口頭での報告はよいが文集には収録できないと、わざわざ釈明してくれました。

 80年代初期に行なった台湾での学術活動でもはっきりした反応がありました。この経過については、最近も日本現代中国学会のニューズレターでふれましたからここでは繰り返しませんが、戒厳令が生きていたころの国民党政権下では、文学者は常に政治家から警戒される存在でした。今そうしたタブーが完全になくなったわけではなく、むしろ以前とは異なる形での新しい規制の始まることも予想されるのですが、両岸関係の緊張は現国民党政権の下で、少なくとも表面的には劇的に解消しています。文学の分野でもそれは統一志向の強化、独立派の低調という形態で実現していると言えるでしょう。

 最近、その象徴的な二つのシンポジウムが台湾で開かれました。一つは一昨年4月、陳水扁政権の末期に台湾師範大学と台南の長栄大学で開催された「第五届台湾文化国際学術研討会」です。「李喬的文学与文化論述」と題して、独立志向の強い作家李喬の業績が三日間にわたって論議されました。

もう一つは本年9月に台北で開催された「陳映真創作活動五〇周年記念国際研討会」です。それを形式的に主催したのは文訊雑誌社という国民党傘下の文化機構です。この雑誌社はかつて国民党本部の置かれていたビルの一室(現在は長栄発基金会ビル)に、現政権から無料で事務所を提供され、国民党の方針に沿った文化活動を行っていることで知られる出版社ですが、それがかつて陳映真を逮捕し、政治犯として7年間も投獄した国民党の政策からいえば、とうてい相容れない文学者の功績を称えるために会議を主宰したことになります。

大陸でも台湾でも、政治と文学の関係は欧米や日本での常識では考えられないほど密接不可分です。華文文学についてもそうした現実は無視できません。ここでは、そんな中で創作に取り組んできた文学者の営為について少しふれてみたいと思います。

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